賃貸物件を利用する場合でシミュレーション
生活介護サービスは、利用者が事業所に通います。障害支援区分が高い利用者が多い場合や、車椅子等を利用する利用者が多い場合を考えると、物件は少し広めのほうが使いやすいです。しかし、広さに比例して必要資金も多くなります。
ここでは、賃貸物件を利用する場合で、簡単なシミュレーションを行っていきます(地域差・条件面などで大きく変わりますのでご注意ください)。
イニシャルコスト(初期費用)
①法人設立費用
障がい福祉事業の指定を受けるためには、法人の設立が必要です。法人を立ち上げるにあたって必要な資金は、ここでは、比較的多く株式会社を新規で設立するケースでシミュレーションします。
新規で株式会社を設立する場合、「25万円」程度は必要とします。
②物件の賃貸に必要な費用(賃料と敷金・保証金などの初期費用)
物件の訓練・作業室の面積は、指定権者によって異なります。利用者1人あたり「3.3㎡」から「訓練に支障のない広さ」とする指定権者が多いですが、ここでは1人あたり3㎡の訓練・作業室で考えます。
最低定員は20名なので、「3㎡×20名=60㎡」ですが、障がい支援区分が高い利用者を想定し、「70㎡」とします。ここにプラスして相談室兼多目的室が必要ですし、事務スペースも考慮に入れて「80㎡」程度の物件を借りたとします。
賃貸料は、都市圏か郊外などで大きく違っており、築年数にもよりますが、月「17万~25万円」くらいまでに抑えたいところです。
また、送迎は必要な場合が多いので、駐車場付きの物件や近くに駐車場を借りる必要があります。ここでは家賃「20万円」を見込んでおきます。
そして、「賃貸契約=業務開始」ではありません。内装や消防設備の設置工事中も家賃は発生します。従業員を早く集め指定申請を早く行わないと空家賃ばかりがかかってきます。
最低でも2か月分の家賃が発生すると仮定して、イニシャルコストは家賃「40万円」で計算します。また、1、2か月程度のフリーレントに応じてくれる家主もいるので、一度交渉してみましょう。指定権者によっては、3か月以上の空室費を見込まないといけない場合もあります。
敷金、礼金、保証金などは家賃2か月分程度の「40万円」を加算しておきます(場所や築年数などに大きく変動します)。さらに、不動産業者への手数料が、家賃のおおむね1か月分として「20万円」程度発生します。
③内装や消防費用
生活介護サービスの場合、活動内容は地域などによって大きく変わることは少ないです。内装にお金や時間をかけるよりも、まずは物件の状態がよいものを探すことが先決です。
ただし、壁・床が古い場合は、クロスの張替えなども考えてください(スケルトンの物件や古い物件だと、内装コストがかかります)。
消防関係は、誘導灯・消火器程度で済む物件であれば十数万円程の場合が多いですが、自動火災報知設備が必要な物件の場合、賃貸する部屋だけでなく、建物全体に自動火災報知機の設置が必要な場合があるので、100万円以上の費用がかかることも考えられます。
また、他の消防設備の設置義務を要する物件もあります。ここでは、内装工事なしで誘導灯の工事費「15万円」を見込んでおきます。
④備品、電化製品や家具など
備品として、電話、FAX、パソコンが必要なので、「20万円」を見込みます。また、ネットWi-Fiなどの回線がないと国保連請求の際に不便です。電話回線とネット回線での工事費として「5万円」を見込んでおきましょう。
利用者の創作活動や生産活動の内容によって変わりますが、利用者のテーブルや椅子を備えておくのが一般的で、相談室用のテーブル、椅子とあわせて約「15万円」を加算します。
また、機能訓練を実施する場合に必要な機材があります。加えて入浴サービスを実施するのであれば浴槽の設置なども必要です。
区画づくりのパーテーション代として「5万円」、さらに訓練、作業用具に加え、事務机、書庫や文房具などの備品も必要なので「10万円」をそれぞれ見込みます。
物件に、エアコンが設置されていない場合は、面積が広いので出力の高いエアコンを入れる必要も出てきます。(ここでは見込みません)。
⑤人件費
指定を受けるまでに準備を行うことが多数あるため、管理者兼サービス管理責任者として1名、指定前に雇うのが望ましいです(指定権者によっては、申請時に人員配置必要人数の雇用が必要な場合があります)。この分として、事務所負担の社会保険料・交通費込みで「25万円」を見込んでおきます。
⑥自動車
送迎や物品の搬送(特に内職用品の納入等)などに使用するために、自動車が必要になります。中古の自動車1台の購入費として3か月分のガソリン代等を含めて「100万円」を見込んでおきましょう。
⑦その他
上記以外にも、物件選びなどの際にかかる交通費や申請時に必要な書類集めの実費、損害賠償保険への加入代、求人媒体への費用など、多岐にわたりますが、 「10万円」程度を見込んでおきましょう。
以上を合計すると、イニシャルコスト(初期費用)は下表のようになります。
項目 | 金額 |
---|---|
法人設立費 | 25万円(合同会社なら約6万円) |
家賃 | 40万円(2か月分) |
敷金、礼金、保証金 | 40万円 |
不動産業者への手数料 | 20万円 |
内装なし、消防費用のみ | 15万円 |
備品(回線工事費を含む) | 55万円 |
人件費 | 25万円 |
自動車 | 100万円 |
その他 | 10万円 |
合計 | 330万円 |
- ポイント
生活介護サービスの場合は、グループホームなどに入所している方が多く、送迎するケースもあるため、必ずしも駅近の物件を選ぶ必要はありません。よって都市部においても物件選びに選択の幅が出ます(従業員の通勤時間の問題はあります)。ただし、築年数等で大きく変動するので、どれだけ資金を準備できるかという話になります。
ランニングコスト
上記イニシャルコストに続いて、3か月分のランニングコストもシミュレーションしていきます。開業後3か月間の事業所収入がなくても最低限資金ショートしないことが必要となるためです。
【モデルケース】
平日営業/定員20名の事業所。管理者兼サービス管理責任者1名、生活支援員3名(常勤)、同1名(非常勤)、看護師1名(非常勤)、医師1名(嘱託)でスタート。
以下は、画像に記載されている内容の文字起こしです。
- 家賃(3か月間、利用者なしを想定)
20万円/月 × 3か月 = 「60万円」 - 人件費
・管理者兼サービス管理責任者 1名
25万円/月(社会保険料や交通費等込み)× 3か月 = 75万円
・従業員(常勤 3名、非常勤 1名)
常勤 22万円/月(社会保険料や交通費等込み)× 3か月 × 3名
= 198万円
非常勤 10万円/月(交通費等込み)× 3か月 = 30万円
・看護師 1名(非常勤)
15万円/月(交通費等込み)× 3か月 = 45万円
・嘱託医師(月 1回)
6万円 × 3回 = 18万円
以上、合計すると「366万円」 - 光熱費等(3か月間、利用者がない場合を想定)
約1万円/月 × 3か月 = 約「3万円」 - 営業代・雑費
利用者獲得のための交通費等やホームページ作成代などが必要になってきます。運営していくうちに必要なものの購入代も発生します。事業所によって大きく変わりますが、月に2万円程度を見込んでおきましょう。
約2万円/月 × 3か月 = 約「6万円」
以上を合計すると、生活介護サービスに要する3か月分の運営コストは次の表のようになります。
項目 | 金額 |
---|---|
家賃 | 60万円 |
人件費 | 366万円 |
光熱費 | 3万円 |
営業費・雑費 | 6万円 |
合計 | 435万円 |
まとめ
上記シミュレーションの結果、イニシャルコスト330万円と3か月のランニングコスト435万円を合計した開業資金は「765万円」になります。
生活介護サービスは、関わる人員が多いため、人件費総額が高くなる傾向にあります。
また、利用者がゼロであっても「人員配置基準」を守る必要があることから、最低3か月間は利用者がいなくても、資金ショートせずに営業できるだけの予算が必要となります。したがって、しっかりと計画を立ててから事業を開始するべきです。
開業後、利用者が集まる速度は速いとはいえないので、開業資金(賃貸物件で内装なしの場合)として「900万円」以上、準備することを推奨しています。